大判例

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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)6号 判決

事実及び理由

一  請求の原因1ないし3の事実(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び審決の理由の要点)は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、審決に原告主張のような違法の点が存するか否かについて検討する。

1  第二引用例の記載内容について

前記本願考案の要旨によると、本願の下着は、ヒツプ部を「積極的に外方に膨出成形」することを特徴とするものであることが明らかである。

一方、成立に争いのない甲第五号証によると、第二引用例には、別紙図面(二)と同じ図が示されたうえ、発明内容の説明として、全方向に伸縮性を有した生地で作られるガードルの、例えば右図面の1、2図の符号2ないし4の部分(前腹部、腰部、ヒツプ部)にプラスチツクを噴霧又は塗付して含浸させた後、乾燥又は加熱することにより右部分を硬化させるとともに、その伸縮性を減ずる方法が記載されているところ、右ガードルのヒツプ部が膨出成形されたものか否かを直接的に表現した記載は存しないことが認められる。

しかしながら、人体の構造を考えると、右引用例記載のガードルのヒツプ部が外方に膨出(又は突出)成形されていない平面状のものであるとするならば、何故にわざわざ同部分に前記のように樹脂加工を施してまで硬化、伸縮性の減少を図るのか、その必要性を見出し難く、あえてこれを行うとすれば、当然人体に無用の圧迫、異和感を生ぜしめるであろうことが想像される。そして、前掲甲第五号証によると、第二引用例には、前記コーテイング技術に関連して、「単に伸縮抵抗を有し、そして好ましくないかたまり(こぶ)を除くだけでなく、また、望ましいかたまり及び曲線を付け加える領域を用意することも望ましい。換言すれば、好ましくないかたまりを除いて、同時に好ましいかたまりを生み出すことは好都合なことである。」(二欄四三行~四七行)及び「もし充分な量のプラスチツクが規定の領域に適用されるならば、隆起部又はかたまり(こぶ)が生成される。したがつて、ガードル着用者の呈する体形を変えることができる。」(二欄六九行~七一行)との記載の存することが認められる。そうだとすると、第二引用例には、ヒツプ部を隆起させたガードル、すなわちヒツプ部を外方に膨出成形したガードルが示唆されていると認めるのが相当であり、右認定を妨げる事実を認めるに足りる証拠はない。

したがつて、本願の下着と第二引用例記載の下着とは、ヒツプ部を膨出成形している点において一致するものである。右と同旨の審決の認定に誤りはなく、原告の前記主張は採用できない。

2  進歩性の判断について

前記本願考案の要旨によると、本願考案はヒツプ部を熱プレスセツトにより積極的に外方に膨出成形して該部分の伸びを押えることを特徴とするものであつて、熱プレスセツトの具体的な方法や使用する器具についての限定はないことが明らかであり、成立に争いのない甲第二号証によると、本願考案の明細書にもこの点に関する記載は何ら存しないことが認められる。

一方、第一引用例にカツプ部が型押しで成形され、全体がパワーネツトでできているブラジヤーが記載されていること、膨出成形手段としての型押しは熱プレスにより行われ、熱プレスでセツトした場合、パワーネツトの伸びが押えられることが当業者に容易に理解されることは、いずれも原告の認めて争わないところである。

ところで、ガードルもブラジヤーも女性の身体の整容を目的とした下着であることにおいて共通するものであり、同じ製造業者が両者を製造する場合も少なくないであろうことが想像され、これによると、右各下着の製造に使われる技術は、可能な限り、相互に応用、転用されるであろうことも当然に推測されるところである。

右各事実によると、本願の下着のヒツプ部の膨出成形は、第二引用例記載のガードルのヒツプ部の膨出成形に第一引用例記載のブラジヤーのカツプ部の膨出成形の技術思想を転用したものにすぎず、当業者がきわめて容易に考案することができたものと考えるのが相当である。これと同旨の審決の判断に誤りはない。

原告は、ブラジヤーのカツプ部とガードルのヒツプ部の各膨出成形技術は種々相違し、前者における技術は後者の膨出成形に転用しえない旨主張する。そして、両者の膨出成形技術は、対象物品が異なり膨出部に要求される機能が相違する結果、その具体的な方法や使用する器具が相違するであろうことはむしろ当然であつて、前者における技術をそのまま後者に用いることができないことは原告主張のとおりである。

しかし、本願考案は、ヒツプ部を熱プレスセツトにより膨出成形することを要旨とするだけで、熱プレスセツトの具体的方法や使用する器具についての限定がないことは前叙のとおりである。また、審決が「ガードルのヒツプ部の膨出と、該膨出成形手段である熱プレスを用いて成形することは当業者のきわめて容易に考えられることである。」と述べているのは、熱プレスセツトの具体的方法や使用する器具を含めて第一引用例の膨出成形技術をそのままガードルのヒツプ部の膨出成形に用いることがきわめて容易であるという趣旨ではないことが明らかである。

したがつて、原告の右主張は採用できない。

三  以上の次第で、原告の主張はいずれも理由がなく、審決にはこれを取消すべき違法はない。

よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

ヒツプ部を有する下着において、該下着を合成繊維よりなる伸縮性生地により構成すると共に、該ヒツプ部を一枚生地で縫目なしに形成し、かつ該ヒツプ部を熱プレスセツトにより積極的に外方に膨出成形して該部分の伸びを押えたことを特徴とするヒツプ部を膨出させた下着。

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